2020/05/19 16:15
愛媛県宇和島をブラッドオレンジの一大産地に引き上げた児玉恵さん。「真っ赤」な想いが炸裂します。
跡継ぎで始めた農業で「教祖」に!?
ー早速ですが、よろしくお願いします。まず、児玉さんが農業を始めたのはどうしてですか?
田舎の長男に生まれたから、ですかね。田舎の古臭い常識とか掟とかがあるじゃない?それですよ。本当は花の都東京に行きたかったけど、あとを継ぎなさいと言われ、その通りにしました。「そういう時代」だったんです。
もうあとを継いでから34年経ちますけど、なんとかなんとかここまでやってきてますね。
ー34年っていったら私はまだ生まれてないですね...。そのご実家の農業っていうのは、児玉さんがあとを継がれる前もずっと柑橘栽培をしてらしたんですか?
いや、うちはもともと宇和島の百姓の家で、1960年ぐらいからみかん農家を始めたんですよ。戦後の農地開放後は、人を雇って使うような大きな農家もたくさんあったんですがね、社会とか環境の変化についていけずにどんどん潰れてって。今では新興の柑橘農家しか残っていない。うちはそのひとつです。
ー貴重なサバイバーですね。ブラッドオレンジの栽培はいつから始められたんですか?
今から17年前です。ブラッドオレンジはイタリアが主な産地で、当時日本産はとても少なかったんですけどね。地球温暖化による気温上昇で、われわれの宇和島でもうまく栽培できるのではないかと思ったんです。それで、モノは試しってことで思い切ってやってみることにしました。
ー温暖化が助けになっているとは驚きです。思い切ってブラッドオレンジに手を伸ばしてみて、どうでしたか?
始めてしばらくは風当たりがすごい強くて。”邪教集団”や”血塗られたオカルト教団”の教祖とかって言われてました。
臥薪嘗胆!不名誉な「教祖」を払拭
ー「血塗られたオカルト集団」!!!!?
そうです。ブラッドオレンジはオレンジですが、いちごに見間違うぐらい真っ赤な色をした実がなることもあるし、中身だって赤いですからね。「血塗られた」って揶揄する人がいたんですよ。
それに、当時の宇和島ではほとんど知名度もなくて、もちろん食べてる人もいませんでしたからね。そんな果実を、導入したわれわれのことは理解し難かったんでしょう。それで「オカルト集団」ですよ。
ーそういうことでしたか...。それじゃあ、導入してから宇和島に馴染むまでの期間、相当な苦労をされましたよね。
そうですね。強行突破でした。最初はやっぱり、栽培環境もわからない上に販売体制も整っていませんから。そんなところから、ゼロから栽培スキルを磨いて、営業宣伝だって自力でね。5年ぐらいですかね。
ーええ...よく5年も...。
そうですねえ。冷ややかな目で見てくる人たちがいても、「今に見てろよ、絶対成功してやる」という信念を持ち続けてました。"臥薪嘗胆"って漢文で習ったでしょ、まさにあれですね。それに...
みんなを虜にするブラッドオレンジの不思議な「魔法」
それに、ブラッドオレンジは人を惹きつける「魔法の果実」なんです。
ー「魔法」、ですか。
ええ、そうです。「出来損ない」っていう「魔法」です。
ーええと...どういうことでしょうか?
他のオレンジ、例えば”紅まどんな”とかって、そのままたべて美味しい果実なんです。”完成”してるんですよ。
それに対してブラッドオレンジっていうのは、出来損ない、つまり"未完成"の果実なんです。まだね、洗練されてないんですよ。だけど、というよりだからこそ、シェフやパティシエに対して「素晴らしい商品にしてくださいね」って、ブラッドオレンジのほうから投げかける。創意工夫を引き出すわけですね。そうすると、人は燃えるんですよ。世界で一つだけの商品ができるかもしれないからね。
ー「出来損ない」だからこそ、人に訴えかけて、人を惹きつけるのか...。
用途の幅がとっても広いってことでもありますね。
そうなんです。守備範囲が広い。イチローより広いよ。野球で行ったら外野のセンターレフトライトも全部守るぐらい。
ー(笑)。生産者としての児玉さんからみたブラッドオレンジはどうでしょうか?
お世話のしがいがありますね。
同じブラッドオレンジでも、品種によっていろんな性格の兄弟がいますから。それに、同じ品種でも木によったり、同じ木でも実がなる位置によってりして色や味も違ってきますから。
生産者は、シェフやパティシエから「酸っぱめ」とか「甘め」とかっていう要望を受けて、それに合わせて果実を仕上げていくんです。
ー果実そのものも生産者の方次第のところが大きいんですね。
そうですね。変化自在の魔法の柑橘とも言いますね。どういう果実ができるか、どういう料理ができるかはその人の考え次第ですから。
ー素敵な果実です。
でも、まだまだ知らない人はいるんですよね。最初に手を出した人間なので、最後まで面倒見なきゃいかんと思ってますが、まだまだいろいろやっていかなきゃね。われわれ農家が潤えば、宇和島も潤いますし。
ブラッドオレンジと宇和島がピッタリ合う秘密
ーそれでは、宇和島とブラッドオレンジは、どういうふうにマッチしていると思いますか?
私が勝手に宇和島のことを「東洋のナポリ」って呼ぶぐらい、合ってると思いますよ(笑)。
リアス式海岸は共通してるし、温暖化によって気候も近づきましたから。
それに最近は、宇和島で生絞りのブラッドオレンジジュースが流行ってるんです。イタリアと同じ生絞りです。まあ、イタリアは自販機が置けない治安の悪さから生絞りらしいですけど(笑)。
足りないのは火山ぐらいかもしれません(笑)。
ー宇和島には若い人も多いそうですね。
そうなんですよ。災害とかがあったり、都会で働いてUターンする人が田舎に帰ったりしてね、田舎の文化とか伝統を継承して地域を守りたいという人が多いです。
ーそうなんですね。それはブラッドオレンジとマッチしてるんですかね?
そうだと思いますよ。私らなんかの昔の人は、ものさしで測ったみたいに「あれはいけませんこれはいけません」って言うけど、もう今の時代は常識を疑えなんですよね。変なことでも当たり前になってく。若い人のそういう空気はブラッドオレンジと合っているかもしれません。
さっきも話したとおり、ブラッドオレンジは異端児でしたし、知名度の伸びしろも大いにありますから。
魔法じゃない、一つの大切なつながりが生んだyolozとの出会い
ー異端児として見られていたブラッドオレンジを栽培されてるんでしたもんね(笑)。そんな中で宇和島を今のような一大産地まで引き上げられたのはどうしてでしょうか?
やっぱりコツコツと地道に、一人二人って仲間を増やしてきたことだと思います。
時期でも、折れずに技術を磨いて、もっと美味しいブラッドオレンジを作って、そしたら目を光らせてくる業界の人現れて、少し盛り上がって、それを見て仲間が少し増えて...。そういうふうに地道にやってきたから、着実に輪が広がって行ったんだと思います。長い時間がかかりましたけどね。
一気に知名度が上がるなんて、「ブラッドオレンジで癌が治る!」ぐらいのデマがないとありえませんから。一人一人とのつながりを大事にしてきました。
ーそうしたつながりの一つとして、yolozとのつながりも大切にしてくださっているんですね。
はい。実は、yolozさんとのつながりも、もともと大切にしていたつながりが、つくってくれたものなんです。
ーえ!初めて聞きました。
もともとうちに手伝いに来てくれてた東京の大学生がいたんですよ。東京のイベントでもブラッドオレンジを一緒に宣伝してくれた子がね。
その子が3年ぐらい前から食に関するライターの仕事をしてる関係で、yolozの代表の片山さんと知り合いまして。うちと巡り合わせてくれたんです。
ーなるほど、それで以前からHACARIの店頭にブラッドオレンジがならんでいたんですね...。つながりの連鎖ですね。
「旅するチーズケーキ」で未来につながってほしい!
ー今回のHACARIとの「旅するチーズケーキ」企画ですが、どうしてご協力をしてくださったのですか?
やっぱりそれもつながりを大事にしたくて。
まずは消費者とのダイレクトなつながり。「旅するチーズケーキ」を食べた消費者の声が、直接われわれ生産者のもとに届くって聞いて。やっぱり末端の消費者とつながって声まで聞けたら、もっと頑張ろうって励みになります。
ーTwitterに感想を書いてくれる人も多いですからね。
そうみたいですね。
それから、ブラッドオレンジをプロモーションする立場にあるわれわれ生産者とyolozさんがもっと強くつながれるっていうことがとても大事だと思いましたね。これからブラッドオレンジのつながりを広げるためにね。
ーなるほど、yolozとのつながりを通してブラッドオレンジの将来も見据えているわけですね。
そうですね。消費者の方はもちろんだけど、十年二十年三十年ってブラッドオレンジの美味しさがつながっていくためには、それをプロモーションする立場にいるもの同士のつながりが必要だと思うから。
ーたしかに。
みかんはもうみんな知ってるけど、ブラッドオレンジは知らないし見てもわからない。だから、時間もすごいかかるけど、十年二十年三十年とつなげることによって、日本の柑橘産業の未来につながっていく、次の世代につながっていく。そういうふうにつなげていくことが、私の夢ですね。小さいことですけどね。
届け、児玉さんの想い
ーそれでは、未来に向けて人と人のつながりをつくりだす「旅するチーズケーキ」には、生産者としてどのような想いを乗せていますか?
のけぞるうまさですね!のけぞるうまさの国産ブラッドオレンジ。のけぞりすぎて怪我しないでねって。ひっくり返ったら大変ですからね。本当にすごく美味しいから。そういう想いが、チーズケーキと一緒に伝えられたらいいなって思ってます。
旅するチーズケーキのご購入はこちらから!